長井盆地西縁断層は、朝日山地と長井盆地の境界に位置する。白鷹町から長井市を通り飯豊町に抜ける約25キロの活断層で、長井盆地西縁断層帯(全長約51キロ)を構成する断層の中で最も長い。山形大教授の八木浩司は「この断層を特徴付けるのは盆地西側にある葉山。これだけ見事な活断層は珍しい」と話す。
特徴的な葉山
八木によれば、200万~300万年前、葉山は長井盆地と同じ高さにあった。その後、東西圧縮による断層運動で長い時間をかけて隆起し、葉山が形成された。「葉山の奥にそびえる朝日連峰は200万~300万年前当時は500~600メートル程度の山だった。葉山の隆起と歩調を合わせるように徐々に高まり、いまのような地形になった」
葉山を持ち上げた活断層は数十万年前から、活動の場が手前の東側に移ったという。この現象は「スラスト・フロント・マイグレーション」と呼ばれる。スラストは「強く押す」、フロントは「前」、マイグレーションは「移動」。
断層運動によって山はじわじわと隆起するが、一定程度高くなると、手前の山裾を変位させるようになる。その理由を、八木は次のように解説する。「大きくなった山全体を持ち上げるには相当のエネルギーがいる。山裾の、平地に近い部分だけを持ち上げる方が楽なので、断層線が手前に移動する」。昨年11月に発行された都市圏活断層図で引かれた線は新しいライン。かつてはもっと西側にあったというわけだ。
今後30年以内の地震発生確率が0.02%以下と、県内の主要断層帯の中で最も低い長井盆地西縁断層帯だが、飯豊町は広報で地震への警戒を呼び掛けるなど防災意識の向上に努めている。自治体が広報で防災特集をするのは当然と言えるが、同町には町役場が長井盆地西縁断層のすぐ西側に立つという事情もある。
役場庁舎は1979(昭和54)年に現在の場所に移転新築された。町生活環境室長の伊藤芳典は「耐震調査の意向はあるが、具体的には決まっていない。ただ、東日本大震災後に発電機を備えたり、水を備蓄した他、毛布、衣類、医薬品の保管場所も設けるなど対策を取った」と語る。
長井盆地西縁断層の直近にある飯豊町役場。東日本大震災後、広報で特集を組み、防災意識向上に努めている
広報でも特集
2011年6月の「広報いいで」では「東日本大震災から学ぶとき」という特集を組んだ。町の直下に活断層が横たわることを紹介した上で「断層帯周辺では震度7が予想される」とし、「(震災があった)今だからこそ、真剣に考えるタイミングを逃してはいけない」と強調した。
大規模災害時、拠点となるべき町役場だけに、その果たす役割は大きい。住民側も自助努力を怠らないようにしたい。東日本大震災から1年以上がたち、大きな被害のなかった本県では記憶が薄れつつあるのではないだろうか。しかし、津波で被災した太平洋側の沿岸部ではいまなお復興の途上にある。飯豊町が広報で訴えたように、一人一人が「真剣に考えるタイミングを逃してはいけない」。
=敬称略
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